170219-26(sun)SugarS

(L→R)NARU・ピエール・IWAjI・KUMA・のスケ・HERO

●プロローグ

 2016年11月8日。ウタウタイ集団SugarSから、メンバーの脱退発表がされた。報せを目にしたときは驚いたが、なんとも彼らしい明確でしっくりくる目標。その後に参加したライブも実にポジティブだったことで、彼らを応援し続けようと心に決めた。ところが、どういうわけか2017年を迎えてからは、思いにふけることが日増しになった。これまで様々なバンドを見てきたが、こんなに丸ごと愛おしく感じるのは初めてである。刻一刻とその日は近づく。

 2017年2月19日。今年、初めて彼らに会う日。この日が終われば、あと1回しか会うことがない。複雑な気持ちを抱えて山梨県の甲府に向かった。彼らがここでライブをするのは2度目だが、到着するとあの時と同じように晴れだった。会場は同じように満員御礼だった。ライブが始まるとKUMAさんが早速階段の手すりにまたがり、客席にも遠慮なしに進入…。ハラハラしながらも、その相変わらずさにどこかホッとした。会場ごとに違うというセットリストにも注目。ここでは久保田利伸の王道ラブソング<LA.LA.LA. LOVE SONG>のカバーの後、オリジナルの禁断ラブソング<蜜落園>で落差の激しい愛を切り込み、彼らのライブではめずらしくなんとも言えない感情に巻かれていた。

 ラストのセッションではオープニングアクトをつとめた県内で活躍するアカペラグループも含め、会場全体で<笑顔のまんま>を大合唱。地元スタッフの力添えもあり、終始ハートフルなライブ。彼らのライブの❝当たり前❞がそこらじゅうにあった。この空間の一員…ファミリーとして笑い合える。それがたまらなくうれしくて、彼らに出会ってからいちばんの笑顔で(と、自分では思っている)「また来週」と別れを告げた――。



●ラストのはじまり

 2月26日。今度は東京へとやって来た。主に神戸で活動をしている彼らが、地道に足を運んでここもまたホームとなったウタウ場所。ツアーの最終公演を見届けようと、ここでもチケットは完売。そしてこのメンバーでのツアーも最後だ。開演を待つ間、山梨でのツアーを振り返る。春近づく季節に似合いのパステル色に包まれたハピネスな空間に、非常に心が暖かくなったのを思い出す。セットリストが違うとは言え、今日もそんなライブをするのであろう…と予想していた。

 しかし、スタート時にまず飛び出したのはKUMAさんの衝撃性だった。ギラッとステージを照らしたレッドライトのエマージェンシー。1週間前とは180°違うライブ展開に息を飲む。続くIWAjIさんによるKANA-BOON<シルエット>は、このメンバーで歌ってきた時間を紐解くかのような曲に思えた。彼がつい最近ブログに❝出会ってきた人たちのことは出来るだけ覚えていたい❞と記していたのを記憶していたからかもしれない。そんな想いにあふれ、私もこのバンドとの出会いが様々な出来事をもたらしてくれたことに改めて感慨深くなった。

4曲目<空飛べ!ニワトリさん>で、急激に空気はふんわり。険しかったメンバーとファミリーの表情もほぐれ、KUMAさんもマイクをトサカのように頭に乗せるご陽気ぶり。あぁ、このギャップがSugarSの甘々しさを際立たせるズルいところだなぁ(笑)。

そんな彼らのテーマである❝伝えなきゃ意味がない 伝わらなきゃ意味がない❞を、強く感じた2曲のカバー。ピエールさんの歌う<大空と大地の中で>は強く頼もしく、のスケさんの歌う<切手のないおくりもの>はまごころたっぷり。どちらも心の真芯をがっちり捕える。オリジナル曲の<奇蹟の証>では、IWAjIさんが「ゴスペルクワイアのように!」と提案。いつもより大げさな手拍子と体の揺れに照れながらも、ファミリーは笑顔を増幅させてなによりの楽しさをメンバーへと返す。メンバーに❝江戸っ子❞は1人としていないが、声だけならではの粋な息づかいを感じさせるリズムや音色でなんのその。1人1人のお祭り男気質が感じられる<お祭りマンボ>で沸かせ、1stステージは終宴となった。




●1分1秒に込めてきた音

 2ndステージはまた一転、やわらかく語りかけるハーモニーで始まる。はじめて聴いたときは個性も強く、見た目の印象で浮ついて見えたこの6人。いままでにないアカペラバンドとしての魅力は感じつつ「好きになれる気がしない……」と、どこか斜に構えてライブを見ていたことも。今ではコーラス陣の溶け合う声や各々を見合わせながらの表情、こうしたやさしさのあふれる歌声にも不意に笑みがこぼれてしまう。元気なだけが彼らのライブではないことを、この3年を通じてよく知ることができたのもうれしかった点だ。

 さて、ここでSugarSのライブに今まであまりなかったという試みが行われる。それが今ツアーで注目のボイス・パーカッションNARUさんによるソロステージだ。ここまで明言を避けてきたが、彼こそがSugarSを脱退するメンバーである。フリートークのコーナーで「インベーダーゲームにハマって、ゲームプログラミングの仕事をしていた」と驚きの過去を明かしたNARUさん。その❝極めたがり❞の性格であるNARUさんが打ち続けたボイス・パーカッションを、この東京でも刻みつける。山梨では2階席の端で見ていたため、徐々に押し寄せる音圧にただ圧倒されていたが、この日はそれを真正面から打ち込まれた。鍛え上げた己の体から繰り出す一打一音が、緊迫した空気を伝い胸に響く。澱みのない凛々しい輪郭をした鼓動は、15年間で築き上げた誰にも真似のできない魂と音の宿りだ。その歩みを讃えるように、ファミリーは熱く熱く拍手を送った。




●それでもウタウ

 その様子をツアー中、袖で見続けた5人がステージへ戻ってくる。HEROさんが全身全霊で解き放つ<Listen To The Music>。6人揃っての第一声がまたファミリーを笑顔へと導き大声で歌わせる。このメンバーが愛されてきたことを、痛いほどに感じさせられた瞬間だ。SugarSの母体が生まれて15年。HEROさんとNARUさんという2人の息づかいが最も長くそこに在り続けたものだ。私はかつてこんなにもリズム隊を魅力的に思ったアカペラバンドはなかった。その技量や互いの呼吸から作られる音は私にはわからないことだらけ。しかしツアー終了の後『生声ライブ(※)』のトークで「NARUはやる気のバイオリズムが激しいから、その度に衝突しケツを蹴り上げてきた」というエピソードが語られ、チームの一員としての愛情深さを知ることはできた。

 本編のラストはオリジナル曲<ダイジョーブ!>をまだまだパワフルに届ける。実のところ、脱退発表を受けてから私の脳内ではこの曲が激リピートされていた。それを改めて彼らがこの場で歌ってくれるのは、自分たちへの言い聞かせとも、ファミリーへのメッセージともとれる。❝信じることが大事❞、❝いつだって僕は君の味方さ❞。会場全体で想いをシェアできたようで、この1曲が次への期待を高鳴らせた。

NARUさんが「正直、終わりたくない。少しでも長くいたい」と、葛藤し続けた胸中をもらす。それでも走ることを決めた彼と歌う<TRAIN-TRAIN>が、レールの分かれた先でも互いにエールを送る贐の歌となった。惜しむアンコールは3度にわたる。「このバンドはぎこちない走り方かもしれない」と話すメンバーもいたが、その道中でまたたくさんの人と出会うのだろう。今でさえ、少しでも上手く高く<JUMP!>できるように下から支えることのできるファミリーはこんなにもたくさんいる。メンバーの脱退という寂しい要素は少なからずあれど、いつものように笑顔で締めくくられたライブ。それだけは、彼らがファミリーに贈るかけがえのないものとして、この先も続いていく。


※)『生声ライブ』…メインライブの後、小さな会場に場所を移して行われるオフマイクでのライブ。1時間という短いライブのため、二次会と呼ばれることも。




●エピローグ

 このレポートを書く前日、NARUさんから最後のブログが更新された。お風呂ですっきりと流したはずの汗が、また涙となってあふれかえるようだった。が、堪えた。NARUさんを含めてラストのカバー動画となった、かりゆし58の<オワリはじまり>。その歌詞にある❝笑って「さよなら」を言えたらいいな❞が、ファミリーに贈るいちばん大切なメッセージだとしたら。

 3月14日。SugarSはひとまず5人体制で再始動する。なんといってもホワイトデー。きっととびっきりのライブを用意しておもてなししてくれるだろう。そうしてライブをしてきた15年間だからこそ、今もここに在るのだと思う。

5人のボーカリストはどれも違う個性がありおもしろい。衝動的な熱さ、リアルとロマンチシズムを行き来するクセのある愛情表現を歌うKUMAさんIWAjIさん時にやわらかく時に熱く、またフェミニンな歌声も持ち合わせ女性心をくすぐる眼力と若さで真っ直ぐに突き刺すその想い。この経験が今後どのように声で彩られていくのか楽しみのスケさんリード、コーラス、ベース。その落ち着き払った低音であらゆるバランスを司るピエールさんウタウタイとしてだけでなく、様々な経験を経たからこそ込められる言葉の力を持ち、伝えたい想いがあるHEROさん。彼らの格好良さに気づいてくれる男性ファミリーも増えてほしいところ。どんな手段を遣ってもすべてを伝えるのは難しい。そんな中で、歌うとは?伝えるとは?を、とても考えさせてくれるバンドだ。

 いま、彼らのページ上は名前の通り真っ白だ。5人の可能性を見出すのは5人にしかできない。それを支えるのもファミリーにしかできない。SugarSとファミリーの物語が、またひとつはじまる。



■ライブタイトル『新春ツアー2017~タンクトップは誰のもの?』

■日時:2017年2月19日(日)14:30~

■会場:山梨・桜座

■SET LIST

1. TOKIO

2. R.P.G

3. 遠く遠く

4. LA.LA.LA. LOVE SONG

5. 蜜落園(original)

6. 深夜高速

7. One more time, One more chance

―フリートーク【あの人に贈るウタ】―

8. 切手のないおくりもの

9. 日曜日よりの使者

10. 桜月(original)

11. きぼうのうた(original)

12. 愛なんだ

13. Clap your hands(original)

―NARUボイパソロ―

14.しあわせかくれんぼ(original)

―アンコール―

1. ひといきつきながら(オフマイク)

2. あなたに

―セッション―

1.笑顔のまんま



■日時:2017年2月26日(日)12:00~

■会場:東京・池袋RUIDO K3

■SET LIST

1.手と手

2.シルエット

3.宙船

4.空飛べ!ニワトリさん(original)

5.大空と大地の中で

6.切手のないおくりもの

7.奇蹟の証(original)

8.お祭りマンボ

9.手紙~拝啓十五の君へ~

―フリートーク【情熱を注いだもの】―

10.情熱の薔薇

11.青春の影

12.幸せのかけら(original)

13.ビューティフル・サンデー

―NARUボイパソロ―

14.Listen To The Music

15.ダイジョーブ!(original)

―アンコール―

1.遠く遠く(オフマイク)

2.TRAIN-TRAIN

―アンコール2―

1. 天体観測

―アンコール3―

1.JUMP!


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ぱんだ・ら・もーど

ぱんだら【お仕事▶DTP制作】 パンダを集めるぱんだらの様子。 ツイッター@mikichi_panda

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